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アメリカの片田舎から思いつくままに…

「春にして君を離れ」を読んで

「春にして君を離れ (原題 Absent in the Spring)」を読みました。

 

面白かった。すごく考えさせられた。

 

 でも正直どこが「ネタ」で何を書いたら「ネタバレ」になるかよくわからないくらいなので、まだ読んでない方で先入観なしで読みたいと思っている方は、これ以上読まないほうがよいかもです。


Amazon.co.jp: 春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫): アガサ・クリスティー, 中村 妙子: 本

まずアマゾンからあらすじを。

 

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス

 

 

たった数日間何もない、誰もいない(厳密には宿の給仕がいるけれど)場所に足止めされただけで自分の世界観がガラガラと崩れ去るジョーン。実は家族から長いこと疎まれていたということに気づいてしまうジョーン。

 

いったい何が悪かったのか。

 

私が一番致命的だと思うのは、彼女が全く人と共感できないことです。何かが欠落してるのかと思うほど、人の心に寄り添えない。

 

夫ロドニー「もう疲れた。オフィスワークが全く合わないんだ。子供のころからの夢だった農場経営をやりたい。」

ジョーン「何おバカさんなこと言ってるの?子供みたいなこというのやめて頂戴。」

 

おそらく子供が小さいときはこんなことを言っていたのではないでしょうか。(あくまでも想像です。)

 

子供が目をキラキラさせて拾った石を見せに来る。

ジョーン「 そんな石を拾ってきて、汚らしい。はやく外に捨ててらっしゃい。」

 

子供が笑わせようとして面白い顔をする。

ジョーン「何そんなお猿さんみたいな顔をしてるの?レディーはそんな顔しないのよ。」

 

そんな調子だから子供たちは、思いが強ければ強いほどクールな態度をとったり(長女)、なるだけ家から離れるよう外に向かったり(長男)、自己評価が低く自虐的な行動をとったり(次女)する。

そして成人になるとみなすぐ実家を飛べ出していく。

 

 

別にすべてにおいて同意しなくてはいけないと思っているわけではないです。

 

 

たとえば夫が「上司とはどうしてもやっていけない。会社をやめて昔からあこがれていたパチプロになろうと思う。」と言ったら私だって「素敵!私も応援するわ。」なんて簡単に言えない。

 

でも、、、どうしてそんなにつらいのか、上司がどういうことをするのか、なぜ仕事を辞めたいのかを共感することはできる。自分にとって大したことでなくてもその人にとっては大切なことであることは想像できる。そのつらさに心を寄り添うことはできる。

 

理解し、共感したうえで二人で解決策を考えればいい。私も仕事を探すからそれまでもう少し仕事を続けてくれないか。それともすぐやめて転職先を探すほうが先か。またはほかの上司と交渉して社内で異動できないか。二人の問題として考えればいい。

 

でもこの夫婦はそれができない。

 

二人はとても愛し合ってると思う。

妻から見たらとても理想的な夫として、夫から見たら人の心がわからないかわいそうな妻として。

 

でもその裏側ではー

夫には心に住んでいる恋人と対話しながらバランスをとっている。

妻は現実から逃げるように毎日忙しく過ごすことでバランスをとっている。

 

そんな仮面夫婦

 

もう少しお互い向き合う勇気があれば。

本音を語り合う勇気があれば。

もっともっと素晴らしい夫婦になるのに。

幸せになるのに。

 

面白いけど恐ろしい小説だ。